令和6年5月号

経営:小さな会社の値決め戦略

1.価格交渉における準備と実践のヒント

(1)中小企業庁「中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック」

中小企業庁は、中小企業の事例を基に取引先との価格交渉に必要なツールや交渉のポイントをまとめた「【改訂版】中小企業・小規模事業者の価格交渉ハンドブック」(令和6年2月)を公表しています。交渉のためのヒントになりますので、活用を検討してみましょう。


【準備のポイント】

⓵仕様変更等、不確定要素への対応に備え「業務フロー」と「見積チェックリスト」を作成する。

②業界誌や官公庁の公式サイトで原材料費や労務費に関するデータを定期的にチェックする。

③製品・サービス単位での原価計算を行う。

④主な製品・サービス等の「単価表」を作成する。

⑤自社の事業特性を踏まえた「見積書」のひな型(フォーマット)を作成する。

⑥取引先の経営方針や業績動向に関する情報を収集する。

⑦価格だけで判断されないよう、自社の製品・サービス等の強みを見直す。


【実践の流れ】

①自社業種・業界の価格改定に関する情報を収集する。

②取引先(発注者)の業界・業種に関する情報収集と価格交渉を行う順番を検討する。

③取引先(発注者)への交渉を申し入れる(必要に応じて、書面での申し入れを行う)。

④価格交渉に必要な資料を準備する。

⑤受注後に問題が発生した場合は早めに相談・交渉する。


(2)埼玉県「価格交渉に役立つ各種支援ツール」

埼玉県では、企業の適切な価格転嫁を支援するため、「価格交渉支援ツール」および「収支計画シミュレーター」を提供しています。「価格交渉支援ツール」は、企業間で取引されるさまざまな原材料やサービスの価格について、自由に選択し、価格の推移と増減をグラフ化することができるツールです。「収支計画シミュレーター」は、価格転嫁の有無が今後の企業収益に与える影響をシミュレーションできるツールです。


2.労務費を適切に価格転嫁するには?

物価高に負けない賃上げを行えるような取引環境を整備するため、内閣官房及び公正取引委員会の連名で「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」(以下「指針」)が策定されています。

「指針」では、多くの場合、発注者の方が取引上の立場が強く、受注者からはコストの中でも労務費は特に価格転嫁を言い出しにくい状況にあることを踏まえ、「発注者として採るべき行動/求められる行動」「受注者として採るべき行動/求められる行動」「発注者・受注者の双方が採るべき行動/求められる行動」を示しています。

例えば、発注者には、受注者から労務費の上昇を理由とした価格転嫁を求められたら協議のテーブルにつくことや、労務費の転嫁を求められたことを理由として不利益な取り扱いをしないこと----等を求めています。

一方で受注者には、積極的に情報を収集して交渉に臨むこと、根拠として省庁や業界団体が公表しているデータ等を用いることなどを求めています。

※発注者が「指針」に記載された「採るべき行動」「求められる行動」に沿わない行為をすることにより、公正な競争を阻害する恐れがある場合には、公正取引委員会において独占禁止法および下請代金法に基づき厳正に対処するとしています。


税務:中小企業向け「賃上げ促進税制」のポイント

1.賃上げ促進税制における「中小企業者等」の定義

中小企業向け「賃上げ促進税制」の対象となる「中小企業者等」は、次のとおりです(いずれも青色申告書を提出する者に限ります)。

●資本金または出資金の額が1億円以下の法人(※1※2)

●資本または出資を有しない法人で、常時使用する従業員数が1,000人以下の法人(※1)

●中小企業等協同組合や農業協同組合などの協同組合等

 ※1:前3事業年度の所得金額の平均額が15億円を超える法人を除く

 ※2:同一の大規模法人から2分の1以上の出資を受ける、または2以上の大規模法人から3分の2以上の出資を受ける法人を除く。

なお、本税制は個人事業主も適用を受けることができます。その場合、所得税から税額控除を行うことになり、改正後の税制の適用は令和7年分の所得税からとなります。


2.控除率を上乗せするために求められる要件

(1)教育訓練費の額が、前年度比5%以上増加、かつ適用事業年度の雇用者給与等支給額の0.05%以上

教育訓練費について、基準を満たすことで、控除率が10%上乗せされます。

教育訓練費とは、国内雇用者の職務に必要な技術または知識を習得させ、または向上させるために支出する費用のうち、次のようなものをいいます。

●外部の講師または指導者に対して支払う謝金や交通費等

●施設・設備や教材のレンタル料や使用料等

●研修を外部に委託した際の研修委託費等

●外部の研修に参加させる際の授業料や受講料等


(2)「くるみん」または「えるぼし2段階目」以上の認定

次のいずれかの認定を受けることで、控除率が5%上乗せされます。制度の詳細は、それぞれ厚生労働省のWebサイトをご参照ください。

①「くるみん」以上の認定

「くるみん」とは、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の認定を受けた証です。認定には、「トライくるみん」「くるみん」「プラチナくるみん」があり、中小企業者等では「くるみん」以上が上乗せ要件の1つとなっています。

②「えるぼし2段階目」以上の認定

「えるぼし」とは、女性の活躍を推進している企業として厚生労働大臣の認定を受けた証です。認定には、「えるぼし1段階目」「えるぼし2段階目」「えるぼし3段階目」「プラチナえるぼし」があり、中小企業者等では「えるぼし2段階目」以上が上乗せ要件の1つとなっています。


労務:中小企業のためのメンタルヘルスケアの基礎知識

1.メンタルヘルスケアを実施する意義

メンタルヘルスケアには、従業員の休職・離職の防止以外に、生産性や活力の向上、集中力や注意力の低下の防止、メンタルヘルス不調による労災の防止等の効果も期待できます。

「ストレスチェック」は、毎年、同じ時期に定期的に実施することで、「どんなときにストレスを抱えやすいのか」「どのようなことに心の負担を感じるのか」等、自分自身の心の状態やその移り変わりを把握することができます。自身のストレス傾向を認識することは、メンタルヘルスケアのセルフケアに役立ちます。継続的に実践してみましょう。


2.長時間労働によるメンタルヘルスケア不調を防ぐために

事業者は、原則として、1か月の時間外・休日労働時間が80時間を超えた場合に従業員に対して、労働時間に関する情報の通知を行わなければなりません。その際、従業員側から申出があれば、医師による面接指導を実施することが義務となっています(長時間労働者への医師による面接指導制度)。

ただし、時間外・休日労働時間が45時間を超え、かつ健康への配慮が必要と思われる場合には、面接指導等の措置を講じるのが望ましいとされています。


事務所名岸野有紀 公認会計士・税理士事務所
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岸野有紀公認会計士・税理士
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