岸野有紀公認会計士事務所 経営者向けコラム
共通する本質
最近の重大事案に共通するのは、会計処理の知識不足だけではありません。過度な業績プレッシャー、特定者への権限集中、子会社・新規事業のブラックボックス化、監査・内部通報の形骸化が重なり、不正を止めるはずの組織機能が働かなくなった点です。
経営者へのメッセージ
内部統制は「経理部のチェック作業」ではなく、経営者自身を含む組織の判断を正し、経営判断に用いる数字の信頼性を守る経営基盤です。JPXも、内部統制の強化を中長期的な企業価値向上と資本市場の信頼性向上につながる取組みと位置付けています。
本調査では、2025年9月頃から2026年9月5日までに公表・調査・処分等が進展した事案を中心に、ニデック、エア・ウォーター、KDDI、イーエムネットジャパンを分析しました。
2026年上半期に不適切会計を開示した上場企業は27社・27件で、その内訳は「粉飾」12件、「誤り」12件、「着服・横領」3件でした。件数自体は前年同期を下回った一方、粉飾は前年同期の3倍となり、日本監査役協会も会計不正の発生件数を増加傾向と捉え、予兆把握と予防体制の整備を提言しています。
まず4社の全体像を俯瞰し、詳細は下の各社カードで確認できます。
| 企業・公表時期 | 不正の類型 | 主な影響額 | 中核となった要因 |
|---|---|---|---|
| ニデック 2025年9月~2026年4月 | 評価減回避・費用の資産計上 | 1,607億円 連結純資産への累積影響 | 過度な業績プレッシャー 子会社管理の弱さ |
| エア・ウォーター 2025年7月~2026年7月 | 在庫過大計上・損失先送り | 売上669億円 営業利益335億円の過大計上 | 業績目標最優先の企業文化 トップダウン型経営 |
| KDDI 2026年1月~6月 | 架空循環取引 | 売上2,461億円 営業利益1,508億円 | 業務の属人化 職務分離の不足 |
| イーエムネットジャパン 2026年1月~6月 | 不正送金・帳簿改ざん | 4億6,000万円 純利益81.9%減少 | CFOへの権限集中 単独送金可能な特権権限 |
※ 画面幅が狭い場合、表は横にスクロールできます。
ニデック2025年9月~2026年4月
多数の拠点で、棚卸資産・固定資産の評価減回避、費用の資産計上、補助金収益、貸倒引当金等に関する不正・誤謬が確認されました。第三者委員会設置後、監査人から2025年3月期連結財務諸表への意見不表明を受け、東証の特別注意銘柄に指定されました。
主な影響
第三者委員会算定分だけで、2025年度第1四半期末の連結純資産への累積影響額は1,607億円。2026年3月期末配当は無配とされ、東証は9,120万円の上場契約違約金を徴求しました。
主因と再発防止策
非現実的な目標と過度な業績プレッシャー、監査等委員会への不十分な情報提供、三様監査の連携不足、経理・内部監査・内部通報の牽制不全、M&A後の子会社管理の弱さが指摘されました。改善策は、ボトムアップ型計画、経理機能の独立、会計方針統一、取締役会・内部監査・通報制度の強化等です。
エア・ウォーター2025年7月~2026年7月
連結子会社の在庫を巡る損失先送りを契機に発覚し、調査範囲が本社・複数子会社へ拡大しました。在庫過大計上、売上の先行・過大計上、引当金回避、資産性のない支出の資産計上等が確認され、一部では経営トップ・マネジメント層の関与も認定されました。
主な影響
東証公表時点では、2020年3月期から2025年3月期までに、売上収益669億円、営業利益335億円を過大計上する予定累計額が示されました。特別注意銘柄指定、9,120万円の違約金、決算・有価証券報告書の開示遅延にも至りました。
主因と再発防止策
業績目標最優先の企業文化、トップダウン型マネジメント、経理・管理機能の未整備、取締役会・監査役会等の形式的運用、M&A後の統合・子会社管理不足が指摘されました。企業風土、ガバナンス、内部統制、事業ポートフォリオの4領域で改革を進めています。
KDDI2026年1月~6月
子会社ビッグローブ・ジー・プランの広告代理事業で、担当者2名が2018年8月頃から架空循環取引を継続しました。同事業売上の約99.7%が架空循環取引でした。2025年10月の会計監査人の指摘、同年12月の代理店入金遅延と担当者の自認を経て発覚しました。
主な影響
KDDI公表の影響額は売上高累計2,461億円、営業利益影響1,508億円、親会社帰属利益影響1,290億円、外部流出額329億円。東証は改善報告書提出と9,120万円の違約金を求めました。
主因と再発防止策
業務の属人化、発注・検収・支払の権限分離不足、取引実在性の未確認、非中核事業への知見不足、子会社財務情報の分散管理、グループファイナンスにおける資金需要の妥当性確認不足が主因です。取引先・与信管理、職務分離、新規事業・キャッシュフロー管理、内部監査、通報、グループガバナンスを強化しています。
イーエムネットジャパン2026年1月~6月
当時の常務取締役CFOが管理権限を利用して個人口座へ不正送金し、会計帳簿・監査提出資料を改ざんしました。2026年1月5日、財務担当者が社長をBCCに入れた返済確認メールを送ったことが端緒となりました。
主な影響
元CFO名義口座への送金額は4億6,000万円。過年度訂正により2024年12月期当期純利益は69,753千円から12,592千円へ81.9%減少し、東証は改善報告書徴求と公表措置を実施しました。
主因と再発防止策
元CFOへの経理・財務・管理権限の集中、単独送金可能な特権権限、内部監査の独立性不足、取締役会への情報未報告、通報先に元CFO自身が含まれる制度設計、声を上げにくい風土が指摘されました。単独送金権限の廃止、三様監査連携、外部弁護士窓口、監査等委員への直接報告等が整備されています。
参考:対象期間直前の象徴的事例
オルツは、第三者委員会報告により2021年12月期から2024年12月期までの売上高の約8~9割が過大計上で、経営幹部が実態を伴わないライセンス売上の計上に関与していたとされました。東証は新規上場申請書類に重大な虚偽があったとして、2025年8月31日付で上場廃止としました。上場審査時点のガバナンスと売上実在性検証の重要性を示す事例です。
1業績目標が「挑戦」から「絶対命令」に変わる
ニデックとエア・ウォーターでは、過度な目標や強い業績プレッシャーが、不適切会計を誘発・正当化する環境につながりました。JPXの不祥事予防原則も、経営陣に対し、コンプライアンス違反を誘発しないよう事業実態に即した目標設定を求めています。
2「あの人しか分からない」が統制の空白を生む
KDDIでは広告事業の取引全体が少数担当者に集中し、イーエムネットジャパンではCFOが会計、資金、システム権限、監査対応に強い影響力を持っていました。専門性の高さや信頼は、職務分離や独立検証を省略する理由にはなりません。
3子会社・新規事業・M&A先がブラックボックスになる
ニデック、エア・ウォーター、KDDIはいずれも、グループ会社または本業から離れた事業に対する管理の弱さが問題となりました。JPXは、子会社ごとの重要性とリスクに応じた実効的管理、特に買収子会社等への管理を求めています。
4監査が「資料の存在確認」で終わる
契約書、請求書、成果レポート、残高証明書が存在しても、その内容が真正とは限りません。KDDIでは証憑上の外観が整えられ、イーエムネットジャパンでは会計帳簿・残高証明書等が改ざんされました。今後は、証憑の有無だけでなく、商流・資金流・役務提供・外部証拠の整合性を検証する必要があります。
5内部通報と監査機関への「直通ルート」がない
違和感を持った従業員がいても、通報先が疑義対象者の影響下にある、報復を恐れる、監査役等へ直接連絡できない状況では、制度は機能しません。イーエムネットジャパンでは最終的にBCCメールが端緒となり、同社は経営執行部を経由せず監査等委員へ届く外部窓口を整備しました。
優先順位 1 経営目標・評価制度の点検
これはニデックが掲げるボトムアップ型計画や短期利益偏重からの脱却、エア・ウォーターの業績プレッシャー排除とも整合します。
優先順位 2 権限集中と属人化の可視化
特に「システム上は権限分離されているが、端末や認証手段を一人が保持している」といった運用上の無効化まで確認する必要があります。
優先順位 3 異常値を起点とする実在性監査
KDDI事案では著しい事業成長や資金需要を十分に検証できず、エア・ウォーターでは在庫実態や会計処理の実質的妥当性の確認不足が問題となりました。
優先順位 4 監督・監査機能の独立性を確保
日本監査役協会は、最近の事案を踏まえ、経営トップの誠実性、過度な業績プレッシャー、循環取引、内部統制・ガバナンスの機能不全等を予兆把握の重要論点として整理しています。
不正は一つのミスから突然発生するというより、プレッシャー、権限集中、ブラックボックス、隠蔽、監督不全が連鎖して拡大します。対策も一つの承認手続に依存せず、経営目標、業務統制、モニタリング、取締役会報告の各段階に遮断点を置く必要があります。
内部統制は、会社を縛る仕組みではありません
正しい数字で、正しい経営判断を続けるための基盤です
近年、日本企業では、架空売上、循環取引、在庫の過大計上、損失の先送り、不正送金など、企業の信頼を大きく揺るがす会計不正が相次いでいます。2026年上半期には27社の上場企業が不適切会計を開示し、そのうち12件は売上過大計上や実態のない取引などの「粉飾」に分類されました。
これらの事例を検証すると、不正の原因は、単なる経理担当者の知識不足や一個人の問題にとどまりません。
こうした複数の要因が重なることで、不正を防ぐはずの内部統制が、実質的に機能しなくなっていました。
承認印がある。契約書がある。監査も行っている。内部通報窓口も設置している――。
しかし、承認者が内容を確認していない、証憑が改ざんされている、監査結果が取締役会に届かない、通報内容が疑義のある本人に伝わる仕組みになっているのであれば、統制は「存在」していても「機能」していません。
内部統制で重要なのは、書類や規程の数ではなく、不正や誤りを実際に防止・発見・是正できる状態が継続しているかです。
1業績目標は、現場の実態に照らして合理的か
数字の達成だけを求める評価制度になっていないかを確認します。
2権限が一人に集中していないか
発注、検収、支払、記帳、承認、システム管理を適切に分離します。
3売上・在庫・資金の実態を確認できているか
帳票だけでなく、商流、物流、資金流、外部証拠まで確認します。
4子会社・新規事業・M&A先を把握できているか
事業規模だけでなく、不正リスクや管理体制に応じてモニタリングします。
5悪い情報が経営者・監査機関へ直接届くか
内部通報、内部監査、監査役等、会計監査人の独立した報告経路を整備します。
JPXも、不祥事予防のため、制度と実態の両面からの把握、事業実態に即した経営目標、双方向のコミュニケーション、不正の芽への機敏な対処、グループ全体を貫く経営管理を求めています。
信頼できない数字で意思決定を続けることこそ、企業にとって最大のリスクです。
内部統制とガバナンスが機能していれば、経営者は異常や変化を早期に把握し、問題が小さい段階で修正できます。決算訂正、調査費用、開示遅延、信用低下といった重大な損失を避けるためにも、平時からの点検と改善が欠かせません。
経営判断に耐える数字を、
常に使える状態で整え続ける。
私たちは、会計・税務の専門性とITの知見を生かし、業務プロセス、権限設計、月次決算、子会社管理、内部監査、経営報告まで、貴社の実態に即した内部統制・管理体制の構築を支援します。
不正が発覚してから対応するのではなく、違和感が小さなうちに把握し、正しい経営判断につなげる仕組みを、一緒に整えていきませんか。