令和5年11月号

労務:正しく知って「働き控え」の見直しを!「年収の壁」をおさらいしよう

1.「103万円の壁」の注意点

本人の年収が103万円を超えると、それを超えた分に所得税が課されるとともに、扶養者が配偶者控除を受けられなくなります。

次の例のような「一時所得」や「雑所得」があると、一定の場合、課税所得に含められ、給与収入が103万円以下であっても、扶養の範囲から外れてしまうことがあります。

[一時所得]

(1)懸賞や福引きの賞金品(業務に関して受けるものを除く)

(2)競馬や競輪の払戻金(営利を目的とする継続的行為から生じたものを除く)

(3)生命保険の一時金(業務に関して受けるものを除く)や損害保険の満期返戻金等

(4)法人から贈与された金品(業務に関して受けるもの、継続的に受けるものを除く)

(5)遺失物拾得者や埋蔵物発見者の受ける報労金等

(6)資産の移転等の費用に充てるため受けた交付金のうち、その交付の目的とされた支出に充てられなかったもの

[雑所得]

(1)公的年金等

(2)非営業用貸金の利子

(3)副業に係る所得(原稿料やシェアリングエコノミーに係る所得等)


ただし、本人の年収が103万円を超えても、扶養者において「配偶者特別控除」を受けられることがあります。例えば、扶養者の所得が900万円以下であり、かつ、パートで働く配偶者の年収が150万円以下であれば、満額38万円の控除が受けられます。


2.「106万円の壁」の基準となる「月額賃金8.8万円」とは?

月額賃金8.8万円(年収約106万円)以上になると、一定の条件のもと社会保険への加入義務が生じます。多くの場合社会保険料の支払により手取り収入が減るとされています。社会保険料を支払っても手取り収入が減らない目安は月収約10.5万円です。

ここで「106万円の壁」の基準となる「月額賃金」は、基本給及び諸手当の月額を指します。ただし、残業代・賞与・臨時的な賃金等は含みません。

〇「月額賃金」に含まれない例

・1月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等)

・時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等)

・最低賃金に算入しないことが定められた賃金(精皆勤手当、通勤手当及び家族手当)

なお、従業員が職場の社会保険に加入する場合、事業主側にも社会保険料の支払が生じます。厚生労働省の「社会保険適用拡大特設サイト」には、対象となる人数、対象者の平均給与月額、年間の賞与から、社会保険料の事業主の年間負担額の目安が求められる「社会保険料かんたんシュミレーター」が掲載されています。


3.「130万円の壁」

年収130万円以上になると、会社の規模等にかかわらず従業員自身で、国民年金・国民健康保険に加入する必要があります。

2.と同様に国民健康保険料等の支払いのため手取り収入が減少します。手取り収入を確保する目安は月収約14.5万円となります。


社会保険に加入すると、障害手当金や出産育児一時金などが受け取れます。また、国民年金等に加入すると将来もらえる年金が増えるなどのメリットもあります。世帯収入を増やせば、貯蓄や投資に回せるお金が多くなり、将来設計もしやすくなります。

企業にとっても、意欲のある従業員により長く働いてもらえることは大きなメリットです。「年収の壁」にとらわれすぎない働き方を、従業員と一緒に検討してみましょう。


消費税:こんなときどうする?インボイスの処理についての素朴な疑問

インボイス制度では、仕入税額控除を受けるためには、一定事項が記載された帳簿に加えて、仕入先からインボイスを受け取り、保存する必要があります。一方で、従業員の旅費交通費等の精算など、インボイスを受け取れない取引もあります。実務における対応を確認しましょう。

1.交際費等の範囲から1人当たり5,000円以下の飲食費を除外する場合の判定について

免税事業者等からの課税仕入れについて、仕入税額控除の適用が受けられない20%相当額は取引対価に含めることになりますので、同20%相当額を上乗せした金額で判定しますが、さらに検討する事項として次のことが考えられます。

控除対象とされる80%相当額(仮払消費税)について、その事業年度の消費税申告の課税売上割合が95%未満等の事情によりその全額が控除できない場合には、「控除対象外消費税額」が生じます。この場合、費用に係る控除対象外消費税額はその事業年度に損金算入することが認められますが、この費用のうち交際費に係る部分については、控除対象外消費税額を飲食費に加算したところで判定するとされていますので、さらなる検討が必要となる場合があります。

2.3万円未満の課税仕入れの特例の廃止と一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)

一定事項が記載された帳簿のみの保存で仕入税額控除が受けられる特例は、インボイス制度の開始に合わせて廃止されました。インボイス制度開始後は、取引先からインボイスを受け取ることが困難な、次のような一部の取引に限り、一定事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が受けられます。

・3万円未満の公共交通機関(鉄道、バス、船舶)の運賃

・3万円未満の自動販売機・自動サービス機での購入

・従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費、宿泊費、日当及び通勤手当等


ただし、中小企業者に対する事務負担の軽減措置として、基準期間における課税売上高が1億円以下または特定期間における課税売上高が5,000万円以下の事業者については、「税込金額1万円未満の課税仕入れ」は一定の事項を記載した帳簿のみの保存で仕入税額控除が認めれらます(少額特例)。

3.令和5年9月30日までにリース取引を開始して継続している場合

令和5年9月30日までのリース資産の引き渡しの場合、リース会社(貸手)は引渡し時に売買処理を行い、当該リース取引の全額に対する請求書等(区分記載請求書等保存方式によるもの)を発行しています。借手は、引渡し時に発行された請求書等を保存することで、リース料を賃貸借処理する都度、仕入税額控除が認められます。


税務:令和6年から変わる 贈与税の「暦年課税制度」

1.暦年課税制度とは

暦年課税制度は、1月1日から12月31日までの1年間に、贈与された財産の合計額から基礎控除110万円を差し引いた価格に課税されるものです。贈与される側・する側に特段の制限等はなく、誰でも利用することができる制度で、届出も必要ありません。

年間110万円までの贈与であれば贈与税は課されず申告も不要ですが、110万円を超えると、その超えた部分に課税され申告が必要になります。

税率は、課税される価格が大きいほど税率が大きくなる累進課税方式です。直系尊属(父母や祖父母等)から18歳以上の子や孫等への贈与については、一般の贈与よりも税負担が軽減される「特例贈与」の税率が設定されています。


2.相続前贈与の加算期間が3年から7年に延長

相続等によって財産を取得した人が、被相続人の死亡の日からさかのぼって3年前の日から死亡の日までの間に、暦年課税に係る贈与によって取得した財産があるときは、相続税の課税価格に贈与を受けた財産の価額を加算します。

令和6年1月1日以後の贈与から、この加算期間が、3年から7年に延長されます。延長される4年分の贈与のうち、総額100万円までは相続財産に加算されないこととなっていますが、加算期間の延長によって相続時に課税される相続財産が増加するため、相続税の負担が大きくなることが見込まれます。

ただし、令和5年12月31日までに贈与された財産については、加算期間延長の対象となりません。加算期間は令和9年1月1日以後の相続から順次延長されます。相続税対策として、暦年課税制度を利用して、親などから子・孫等へ毎年少しずつ生前贈与を行うことがよくあります。令和6年以降の贈与からは加算期間が長くなりますので、まずは今年中の贈与の開始を検討されてはいかがでしょうか。


3.相続時精算課税制度とは

相続時精算課税制度とは、贈与者が亡くなったときに、相続財産にその贈与財産(贈与時の価額)を加えて相続税額を計算し、すでに支払った贈与税額が控除または還付される制度です。生涯で2,500万円の特別控除が設定されており、これを超えた額の贈与は一律20%の税率で贈与税がかかります。なお、令和6年1月1日以後については毎年110万円の基礎控除が設けられています。相続時精算課税制度を選択するには、初年度に届出が必要です。

適用には、贈与者、受贈者に一定の要件があり、贈与者は60歳以上の者であること、受贈者は贈与者の直系卑属である推定相続人及び孫などのうち、贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者であることーー等です。

暦年課税制度と同様に、贈与者が亡くなった際には、贈与者から受けた贈与財産を相続財産に加算する仕組みがあります。異なるのはその加算対象です。暦年課税制度では最長7年(令和6年1月1日以降に贈与を開始した場合)以内の贈与が相続財産に加算されますが、相続時精算課税制度では、同制度の適用財産の全てが相続財産に加算されます。また、相続時精算課税制度の適用者であれば、その全員が生前贈与加算の対象者になります。


2.相続時精算課税性の注意点

〇相続時精算課税制度を選択すると、暦年課税制度に戻ることができないため、どちらを利用するかは慎重に決める必要があります。

〇相続時精算課税制度で贈与により取得した宅地等について、相続時に小規模宅地等の特例を適用することはできません。

〇相続時精算課税制度を適用していた受贈者が贈与者より先に死亡した場合は、受贈者の相続時精算課税制度の適用に伴う権利義務は、受贈者の相続人に承継されます。そのため、受贈者の相続人が同じ財産に対し、短期間に2回の相続税の納税を求められることもあり、思わぬ負担増もあり得ます。

〇相続時精算課税制度を利用して多額の贈与を行うと、将来の相続時にその贈与財産の価値が低下した場合や、費消されて残っていない場合でも、贈与時の価額で相続税が課税されます。将来値上がりが見込めそうな有価証券や、毎年の収益が上がる不動産等が相続時精算課税制度による贈与に適しているといえるでしょう。

〇不動産や有価証券等の財産の生前贈与を受けて相続時精算課税制度を適用している場合、その財産は相続税の物納に充てることができません。

〇相続時精算課税制度で贈与を受ける孫については、相続税額が2割加算されます。


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岸野有紀公認会計士・税理士
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